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研究内容 5 ー 臨床応用を目指した再生医療的アプローチ

経緯

 われわれの開発して来た培養技術、解明してきた前駆細胞の分化/増殖能に関する情報を生かして、免疫細胞を再生して細胞療法に用いるという研究を行なっている。

進行中の研究内容

(1) iPS細胞技術を用いた抗原特異的T細胞の再生

 T細胞やB細胞の中から有用な抗原特異性をもつ細胞を取り出してきて、自在に操ることができたら、免疫を人為的に制御できるようになるはずである。
 B細胞の場合は、それはかなり実現している。特定の抗体を産生するB細胞を、別な不死化した抗体産生細胞株と細胞融合することにより、その抗体をつくり続ける不死化細胞株を作製することができる。2種の細胞を融合させるのでハイブリドーマ(ハイブリッドは交雑という意味)という。抗体は精製すれば生体に投与可能になり、実際多くの抗体製剤が臨床で使われている。
 一方、T細胞の場合は、B細胞のようにはいかない。T細胞も長期間培養する、あるいはB細胞と同じように不死化株と融合させるなどにより不死化が可能である。ただし、そうしてできた不死化したようなT細胞は、いわばがん細胞であり、生体に投与して働かせることは難しい。
 そこで、iPS細胞技術を使おうというアイデアが生じる。まず特定の反応性をもつT細胞からiPS細胞をつくる(T-iPS細胞)。すると、そのT-iPS細胞には、再構成されたT細胞レセプター遺伝子が受け継がれる。それを元にしてT細胞を分化誘導すると、再生したT細胞は同じ特異性をもつことになる。T-iPS細胞の段階で無限に増やすことができるので、何度も分化誘導をかけることで、役に立つT細胞を生体に投与が可能な形で無限につくることができる。
 我々は、この方法を用いて、現在がん抗原やウイルス抗原などを標的として、臨床応用を目指した研究を行っている。
 

(2) 生体外における造血幹/前駆細胞の増幅

 もし造血幹/前駆細胞が自在に増幅できれば、骨髄移植のドナー不足問題は解消され、細胞療法でも患者からの前駆細胞を頻回に採取する必要も無くなり、臨床的には極めて意義深い。従って、造血幹/前駆細胞の増幅は、多くの研究者が取り組んで来た。しかし、有効な技術はまだ確立されていない。
造血幹細胞の自己複製に関わる因子は多数報告されているが、それらを培地に添加しても、幹細胞はしばらく培養するうちに、分化してしまう。
われわれは発想をかえて、分化してしまうのが問題なら、分化を人為的に阻害してやればいいと考えた。伊川がこの研究を行っている。
特許案件なのでここでは詳述しないが、われわれが考案した方法を用いれば、多能前駆細胞が、その分化能を失うことなく、あたかもセルラインのごとく、下図のように1ヶ月で1000万倍にも増幅が可能である。この多能前駆細胞は、マウス生体にもどすと、多系列にわたって長期再構築能を示した。