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研究内容 3 ー 胸腺細胞初期分化

経緯

 T細胞とNK細胞が近縁であるということは以前から予想されてはいたが、胸腺中のT前駆細胞がNK細胞の分化能を保持していることをクローナルアッセイできちんと証明したのは、われわれが初めてである(Ikawa et al, JEM, 1999)。
 abT系列とgdT系列の分岐点に関する研究も桂研時代に着手したが、その過程で、1個のDN1細胞からつくられるT細胞が、極めて豊かなb鎖のレパートアを形成できることに気がついた。T前駆細胞がDN4からDP段階にかけて1000倍くらいに増えることはすでによく知られていたが、われわれはDN1段階でも1000倍あるいはそれ以上に増えることを見いだした。T細胞のbiologyを考えるにあたって大変重要な知見であり、priorityもあると今でも信じているが、publishするのに苦労をした(Kawamoto et al, EJI, 2003)。なお、この論文の中で樹立した方法は、1個のT前駆細胞が、培養中でTCRb鎖の遺伝子再構成までにいくつまで増えたか、すなわちいくつのDN3細胞を産生したかを、定量的に計測できる方法である。生成したT細胞から抽出したDNAを用いてDb-Jbの再構成をPCR解析することによって可能となる。

独立後の研究成果

 胸腺内のT前駆細胞は、B細胞をつくれない、また顆粒球などを大量につくる能力もないという意味では、T系列へおおむね決定されている。しかし、前述のように、NK細胞には分化できることはクローナルアッセイで確かめられた。一方、90年代の初めから、胸腺前駆細胞は、複数個用いた解析では、樹状細胞に分化できるという知見も報告されていた。そこで、まず樹状細胞への分化能を、クローナルアッセイで調べた。結果は、DN1細胞の殆どと、DN2細胞の一部が、樹状細胞とNK細胞への分化能を有していることを示していた(Shen
et al, JI, 2003)。
 次に、どの時点でその樹状細胞分化能が失われるか、すなわち、完全にT細胞系列に決定されるのはいつかということを調べた。これまでの他のグループの報告からは、DN3段階で完全に決定されるとされていた。果たしてそれは本当か?この解析には、千葉大の中山先生が作製したplck-GFP Tgマウスを用いた。このマウスでは、近位lckプロモーター制御下にGFPが発現する。GFPはDN2段階の途中で発現するが、丁度このときが完全決定される時期と一致すること、その決定後DN3段階で TCRの再構成が始まるまでの間に4回くらいは分裂することも分かった(Masuda, JI, 2007)。この論文もJIにしか載らなかったが、E.. Rosenbergが総説で詳しく取り上げてくれているし、T. GrafもNatureのNews and Viewsの中で言及してくれていた。意義深い論文であると信じている。

進行中の研究内容

(1) αβTとγδT系列への決定の機構

 このテーマは上記のように桂研時代から続けている。最近は、分岐はDN3段階で起こって、TCRのシグナルの強度によってabTとgdT系列へ誘導的に決定されるという説が有力になっている。これまでの実験結果からは、DN1やDN2でもgdT系列への分岐があること、その分岐はTCRシグナル12非依存的であることなどが分かっている。

(2) T系列への決定は自律的に起こるか環境因子によって誘導的に起こるか

 造血系の系列決定において、環境因子がどう作用するかは、極めて重要な問題であり、いまだにいずれの系列決定の局面においても、答えは出されていない。ある因子が、決定を誘導しているのか、他の機序で決定が起こった細胞を選択的に支持しているだけなのかということは、増殖してしまった後は区別がつかない。この問題に取り組むために、前述のplckGFPTgマウスを用いて、T細胞系列への完全決定の過程をreal timeで可視化して記録するシステムを構築中である。