経緯
T細胞分化を理解するためには、その主な分化の場である胸腺環境を理解する必要がある。そういうわけで、理研へラボを移してから、胸腺環境の研究を始めた。胸腺上皮細胞の分化過程については、T細胞分化と比べて、随分研究が遅れている感がある。例えば、その起源について、胸腺皮質/髄質ともに内胚葉起源であることが示されたのはつい数年前であるし、皮質/髄質は共通の前駆細胞からつくられることが示されたのもごく最近である。なお、この皮質/髄質共通前駆細胞の存在については、まだ疑わしいと感じている。
Willem van Ewijkと共同研究を進めて来た経緯も、この領域の研究を独立した課題として取り組むことにしたきっかけとなった。彼は今はRCAIの胸腺環境研究unitのリーダーであり、彼との共同で進めている研究もあるが、ここで紹介する研究は、実質的に独立して研究を進めている。
進行中の研究内容
(1) 成体期胸腺における皮質上皮細胞維持機構
佐藤の研究により、成体期の胸腺の皮質には、2種類の細胞群があることがわかった。ひとつは胎生期につくられるもので、もうひとつは、生後、徐々に増えてくるものである。やがて老化胸腺では入れ替わるものである。この成体型上皮細胞は、胸腺環境を激しく障害して上皮細胞を失わせると、修復細胞として再生されてくることも判明した。成体において胸腺皮質の修復再生システムがあることを示した重要な知見である。現在論文作成中。
(2) 髄質上皮細胞維持の分子機構
髄質上皮細胞の分化増殖にはNFkB関連のシグナルの関与はよく知られている(RANKL/RNAK, CD40L/CD40, NIK, RelB, TRAF6, etc)。われわれはそれ以外のシグナルpathwayが関与していないか、検索している。