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一般の方向け記事:免疫のしくみを学ぼう!

9.T細胞はどこでどのようにつくられるの?

感染症にかかったとき、いろいろの免疫細胞が出動して病原体と戦ってくれます。その免疫反応の司令塔の役割をしているのが、T細胞です。ひとつひとつのT細胞は、実はごく限られた相手しか攻撃できないのですが、体内には膨大な数のT細胞があり、全体としてはどんな病原体でも対応できるのです。
T細胞は、病原体が侵入してからつくられるのではありません。会ったこともないような病原体に対してでも、それを見分けて攻撃できるT細胞はすでにつくられていて、待ち受けているのです。見たこともない病原体を攻撃できるT細胞。そんなT細胞は、一体どこで、どのようにしてつくられるのでしょうか。

 (1) T細胞が異物をみる「目」
T細胞は、T細胞受容体というタンパク分子を表面に出しています(図1)。T細胞受容体は侵入してきた異物を見るためのT細胞の「目」にあたります。この受容体は、ひとつの細胞には1種類しか出ていません。でも、細胞ごとに形が違う受容体を出していて、それぞれの細胞が別な異物を認識します。体の中には、何百万という種類の、異なるものを認識できるT細胞が存在するのです。こうして、どんな病原体にでも対抗できるわけです。
さて、ここで疑問がでてきます。ひとつは、「どうやってこんなに沢山の違う種類の分子をつくるのだろう。遺伝子の種類はせいぜい数万個しかないのに。」という疑問です。もうひとつは、「何でも見分けて攻撃するんだったら、どうして自分の体の細胞は攻撃しないのだろう」という疑問です。これらの疑問は、免疫という現象の本質にせまる重要な問題です。T細胞がつくられていく過程をみていくと、この問題に対する解答がえられます。

自然免疫の働き


 (2) 胸腺の構造
T細胞は血液細胞の仲間で、他の血液細胞と同じように骨髄の中にいる造血幹細胞からつくられます。他の血液細胞の殆どがそのまま骨髄でつくられるのに対して、T細胞のもとになる細胞(前駆細胞)は胸腺という心臓の上にある臓器に移住して、そこでT細胞がつくられます(図2)。

自然免疫の働き

まず、胸腺がどんな臓器なのかをみていきましょう。胸腺に移住した前駆細胞は、100万倍にもおよぶ増殖をしながら何段階もの分化を経て成熟したT細胞へと育っていきます。胸腺の中でT細胞になろうとしている細胞と出来上がったT細胞とを合わせて胸腺細胞または胸腺リンパ球といいます。胸腺の中でT細胞の分化を助けている細胞は、胸腺支持細胞といいます。その中心となるが、胸腺上皮細胞です。殆どの組織では、上皮細胞はぴったりくっついてシートのように並びますが、胸腺上皮細胞はスポンジのような立体的な構造をとります。胸腺の周辺部には皮質、中の方には髄質と言われる部分があって、それぞれに皮質上皮細胞、髄質上皮細胞という異なる細胞がいます。T細胞のもとになる前駆細胞は血管から入ってきて、図2に矢印で示すように上皮細胞の間を皮質、髄質と移動しながら増殖・分化・成熟して、一人前のT細胞となって胸腺外へ出て行くのです。
胸腺組織を薄くスライスして細胞の種類ごとに異なる色で染色した標本をみてみましょう(図3)。

自然免疫の働き

左上半分の赤い部分が皮質細胞で、右下の緑の部分が髄質細胞です。青く染まっているのは血管の周囲などにある上皮細胞以外の組織(間葉系細胞)です。胸腺全体に、網目のような上皮細胞の構造がみられます。胸腺細胞は、この網目構造の間に、ぎっしりとつまっています(図4)。

自然免疫の働き図-4 マウス胸腺の電顕写真


 (3) 遺伝子再構成によって多様な受容体がつくられる
さて、では初めの方にでてきた疑問にもどりましょう。まず第一の疑問についてみていきます。どうやって沢山の種類の受容体分子ができるのでしょう。これには、遺伝子再構成という驚くべき仕組みが働いていることがわかっています。図5を見て下さい。

自然免疫の働き

ここでは、分かりやすいように遺伝子の構造を実際のものより単純化してあります。 細胞の中には長いDNAの鎖があって、その中にタンパク質をつくるための情報をもっている部分があり、それを遺伝子といいます。T細胞受容体遺伝子の場合、長いDNAの鎖の上に、A,Bという遺伝子の断片のセットと、a,b,cという遺伝子の断片のセットが離れて並んでいる構造になっています。「遺伝子再構成」というのは、この断片の間で切り貼りが起こって、いろんな組み合わせの遺伝子が新しくつくられることをいいます。例えば、図5のように、左の(1)という細胞では、切り貼りの結果、Baという組み合わせの遺伝子ができます。右の(2)の細胞では、Acという遺伝子ができます。
こうして、(1)と(2)の細胞は、異なる形の受容体を表面に出すようになるのです。実際にはそれぞれのセットが何十種類の遺伝子断片を含んでいます。さらに、切り貼りの過程で遺伝子の一部が削れたり、貼り合わせのときに間にDNAの断片が付け加わったりします。その結果、作り出される遺伝子は膨大な種類になるのです。

 (4) どうやって役に立つ細胞を選んでいるのか

次の疑問は、どうして自分を攻撃するT細胞ができてこないのかということです。遺伝子再構成は、例えばサイコロを振るみたいに自由な組み合わせで起こるので、図6にあるように、実際には一度は自分の体を攻撃してしまうような細胞もできてきます。また一方で、異物をみるのにまったく役にたちそうもない細胞も沢山できてきます。ではどうやってこの中から役立つものだけを選ぶのでしょうか。
そのメカニズムを理解するには、まず図7に示すことを理解していただく必要があります。

自然免疫の働き

T細胞受容体は直接異物を見るのではなくて、MHCという分子の上のくぼみにはさまるようにくっついた異物の破片(抗原)を、MHCという分子とセットにして見るということです。つまり、T細胞受容体は、MHCという分子にある程度合う形である必要があります。
中には、MHCと自己抗原のセットにピタッとくっつくような受容体を出しているT細胞もつくられます。こういうT細胞は、胸腺を出ると自分の体の細胞を攻撃してしまうような危険なやつです。ですから、こういう細胞は胸腺から出ることなく死んでもらう必要があります。よくできたもので、実際、胸腺の中のできたてのT細胞は、MHC-自己抗原セットにピタッときて強い刺激が入ると、相手を攻撃するどころか、自ら死んでしまうのです。このようにして自分を攻撃しかねないような細胞は胸腺の中で次々と死んでいきます。このように自己に強く反応するようなT細胞を取り除く過程は、「負の選択」と呼ばれます。
 では、胸腺で何が起こっているかみていきましょう。
図8のように、胸腺上皮細胞はMHC分子を細胞表面に出していて、そこには自分の体に由来する抗原(自己抗原)が乗っかっています。できたての若いT細胞の中には、このMHCと自己抗原のセットに、ピタッとは合わないが「適度に」合うような受容体を持ったものもいます。こういうT細胞は、将来胸腺を出て、自己抗原ではなく異物の抗原がはさまったMHC-抗原のセットと出会ったときには、ピタッとくっついて反応することができる可能性をもっています。このようなT細胞は、将来性を見込まれて合格となります。合格したT細胞は引き続いて胸腺の中で成熟します。
こうして、適度に「自己」と反応できるようなT細胞を選ぶ過程を「正の選択」といいます。

自然免疫の働き

多くのできたてのT細胞の受容体は、そもそもMHC分子と形が全く合わない、言いかえればできそこないです。そういう受容体をつくったT細胞も、何回かは再構成をやり直せるチャンスが与えられています。何回かの試みのうちにうまく合格できるような受容体をつくれなかったT細胞は、やがて死んでいきます。
正の選択と負の選択がそれぞれ胸腺のどこで起こっているか、まだ完全には明らかになっていません。今のところ、皮質の部分で皮質上皮細胞によって正の選択と負の選択が起こって、生き残った細胞が髄質へ移動し、そこで髄質上皮細胞と樹状細胞に出会ってさらなる負の選択にさらされる、と考えられています。