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マンガでわかる免疫学(オーム社刊) 2014年6月刊行

「マンガ」は日本が世界に誇る文化です。オーム社の「マンガでわかる」シリーズは、数学、物理、化学、生物学などのいろいろな分野を
題材にしてきており、難しい話を平易に解説する事に成功していると思います。  
 このシリーズは、編集行程についてはいくつかのプロダクション会社に委託されています。そのうちの一社、ビーコムプラスから最初に
「このシリーズで免疫学を」という相談を受けた時には、「これは絶好の機会だ」と思いました。  

 さて、わかりやすくするための手っ取り早い方法は、内容のレベルを下げることです。しかし、レベルを下げてしまうと、免疫学の本質的な
部分が失われてしまいます。本書では、マンガという手法を最大限に活かすことによって、レベルを落とす事なく、しかもわかりやすく
解説する事ができたと思います。また、新しい考え方や情報もきちんと盛り込めたと思います。  

 なお、私自身漫画を描くのが好きで、最初に本書の企画を聞いた時には、「マンガの部分も自分で描きたい」などという無謀なことを
一瞬考えました。しかし、間もなく漫画家のしおざき忍さんにお願いするという案を聞き、こんな上手な人に描いてもらえるならと、
自分で描くことはスパッとあきらめました。  
 「マンガでわかる」シリーズは「萌え系」の漫画が多いですが、しおざきさんの絵柄はシリーズの中ではちょっとテイストが異なっています。
現代風ですっきりしていて、私はとても好きです。  

 制作に際しては、学術的な内容だけ書くというやり方もあったようですが、折角の機会なので、キャラ設定やシナリオ書きもさせて頂きました。
勿論、それらの作業はビーコムプラスの島田さんや柘植さんと話し合いながら進めましたし、シナリオを手渡した後の編集段階や、しおざきさんが
マンガにされる段階で、趣向をこらしたアレンジをいろいろと加えて頂いたりもしています。  
 本書のストーリーですが、このシリーズでは定番の「恋愛話」は組み込まない構成にして、かわりにいろいろなキャラを登場させました。
例えば美人だけどちょっときつい講師、ゲームオタクな准教授、アニメオタクな教授、会社を経営している暑苦しい老名誉教授などです。
キャラ設定に際しては、特定の誰かをモデルにしたという訳ではなく、自分や複数の知人のいろいろな要素をミックスしたキャラになっています。
そういうキャラにしおざきさんがとてもいいデザインをつくってくれました。  

 また、いかにもありそうな、リアルな設定にしました。生命科学系の学部4回生の学生2人組が、卒業研究を行って、最後に大勢の前で
研究成果を発表する、という筋立てです。研究室の日常の情景も描かれています。  
 本書は、医歯薬学系、理・農・工学部の生命科学系の学科などの学生や大学院生を主な対象として想定しています。また、免疫学の
研究者の方にも、新しい知見や考え方をupdateするための読み物として使って頂けると思います。  

 一方、最近高校の生物の教科書に大きな改訂があり、「生物基礎」で免疫学をかなり詳しく扱うようになりました。高校の生物の先生は、
免疫学を勉強しなおされている事であろうと思います。まずは本書で免疫の仕組みを正しく理解される事をお勧めします。なお、先生だけでなく、
高校生でも、何と言ってもマンガですので、少し頑張れば十分読めると思います。  
 理解をしやすくするために議論をかなり単純化していたり、また筆者の研究者としての意見もありますので、ちょっと偏った解釈のように
思われる部分があるかもしれませんが、「そういう見方もあるんだなあ」と、ご了解いただければと思います。                        

本書「まえがき」より一部改変
2014年5月
河本 宏